『白布の中の花束』
2022年1月から、2年ぶりとなるインドを訪ね、ニマイニタイの洋服づくりにたずさわる仲間と再会することができました。
インドの布は、仕事という言葉の枠に当てはめて作られたものではなく、
彼らの文化、宗教、とりわけ日常と密接につながり、彼らの生活の中で生まれてきた布だとつくづく感じました。
2022年のテーマである「白布の中の花束」。
これは、詩人であり織り工であったカビールからインスピレーションをうけてテーマにした言葉です。
カビールは、ヒンドゥー教の寡婦によってヴァラナシー郊外の池に捨て子されていたのを不可触賎民の織物工でイスラーム教徒のニールとニーマー夫妻に拾われて育てられたという一説があります。
カビールも織物工として一生を終えますが、学歴がなく耳学問で諸宗教家に訪ね回り、ヒンドゥー教とイスラム教の影響を受け、カースト批判や一神教等の思想を広め宗教改革者として有名になったそうです。
カビールが亡くなる時、ヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の両教徒の弟子たちが葬儀の方法を巡って争いが生じ、あわや宗教騒動が持ち上がろうとしたとき、天上から師であるカビールの声が聞こえたといいます ー
「無益な騒動をやめて、遺骨に着せてある白布(インドでは死骸を布で巻く)を取り去り、その下にあるものを両教徒で仲良く分けるが良い」と。
そこで弟子たちがその布をとると、中は花束であった、そんな逸話です。
両教徒はそれぞれ、師の教えを忘れて争ったことを心から恥じ、お互いに肩を抱き合ったといいます。
世界で起きている争いも白布の中の花束が気づかせてくれたように、視点を変えることも大切なのではないか。現地で布や人にふれ、改めてそんなことを感じました。
インドの布、そして新作をお届けできることに感謝を込めて。
代表/デザイナー 廣中桃子