NIMAI NITAI
2022autumn / winter collection
「even now …」
秋冬のニマイニタイには欠かせなくなった、カシミール地方の手紡ぎ手織りウールを纏う季節がやってきました。
カシミールの情勢の問題もあり、カシミールには実はまだ直接訪ねたことがありません。
同い年のカシミール手織り職人のサリームさんに、デリーのアトリエに直接来てもらったり、制作現場のスリナガルからオンラインでの打ち合わせで生地を制作をしていただいています。
カシミール地方の美しい自然の風景と土着の動植物は、多くの作家や詩人、画家にインスピレーションを与えてきたと言われています。
今回のコレクションテーマ「even now…」は、カシミール地方の詩人ビルハナの『チャウラ・パンチャーシカー』からインスピレーションを受けました。
幻想的なカシミール地方の世界を映し出したような美しい織物や刺繍の数々は、厳しい寒さから身を守り、芸術的な装飾品として愛され、また親から子へと受け継がれてきた大切な贈り物でもあります。
ビルハナが愛する人を想って詠んだ詩のように、私たちにとって特別で愛おしいものとなる想いを込めてイメージしました。
手紡ぎ手織りならではの柔らかく軽やかな暖かさの冬の服展。ぜひご覧ください。
NIMAI NITAI 代表/デザイナー 廣中桃子
ビルハナの『チャウラ・パンチャーシカー』は、すべての詩節が一様に「今もなお」という表現ではじまり、ある女性との過去の情事を、まるで現在の出来事であるかのように活々と描写しています。
”ビルハナは卓越した詩人として知られ、その当時の国王の娘である王女の教育者として仕えることを要請された。
王女はわずかの間に博識になり、そして同時にビルハナに魅了されてしまった。
ビルハナもまた賢者で、分別を持っていたのに王女を愛神(カーマ)の藁草のように思い、二人は親の許しを得ずに結婚することになった。
その後スキャンダルが都中に広まり、王は風にあおられた火のごとく怒り、ビルハナを串刺しの刑に処せとを命じた。
牢獄の中で、ビルハナは過去にも未来にも王女のことのみを見て、他のことを考えず、
「今もなお、彼女のことを思う。神ではなくて・・・。」という50の詩節を詠んだ。
その詩を聴いて、王の従者たちは心を奪われ、王命を実行せず、王妃や大臣、司祭官などすべての人々が王にビルハナの助命を懇願し、王はこの卓越した詩人を釈放し、2人を祝福した…”
(上村勝彦著「インドの詩人 バルハトリとビルハナ」より引用)